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宇宙コラムVol.2 人工衛星の『ハッピーエンド』と『バッドエンド』

 こんにちは、宇宙コラム キュレーターの暮伊他宙子(くれいた みちこ)です。2月の夕暮れ時のH2Aロケットの打ち上げ、美しかったですね。いっぽう、4月の終わりには、トラブルに見舞われていたX線天文衛星「ひとみ」の運用を断念する、との悲しいニュースもありました。

 打ち上げから落下するまでの間に、人工衛星が一体どんな運命をたどるのか、みなさんは考えたことがありますか。今回はそのお話です。

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ハッピーエンド:キレイに幕引き

  人工衛星というものは、発射場で打ち上げられた瞬間から、課せられたミッションを完遂する日まで、持ち合わせているものだけで乗り切らなければならない運命にあります。その意味で、人工衛星の一生は、学力テストに似ています 。※ちょっと強引かもしれませんけれど・・・(汗)

 学力テスト当日、みなが所定の席に着けば、机の上・中を片付けよ!との指示。開始時間が来て「始め!」の号令が発せられると、その瞬間に六歌仙の名前があと一人どうしても思い出せなくなっても、参考書を再び手に取り、開くことはできません。午前最後の科目でお腹が盛大にグウウーッと鳴ろうが、それで隣の席の男子に鼻で笑われようが、食べ物を補給することもできません。宇宙ステーションを除く人工衛星も、修理や補給ができるようには設計されていません。そのため、「発射!」の号令でひとたび打ち上がってしまうと、持ち合わせた機器でミッションをやり遂げなくてはならないのです。(注1)。

(注1)ハッブル宇宙望遠鏡は、打ち上げ以降に修理や補給が行われたが、これはきわめて稀なケース

   そもそも地球を周回する人工衛星は、ミッションの目的によって理想的な軌道を決めた上で設計されています。しかし実際の宇宙空間では、わずかな空気抵抗やら太陽輻射(注2)などの外力がジワジワと働いているので、このジワジワ外力に対して何もしなければ、正しい軌道からどんどん外れていってしまいます

(注2)太陽光、またはその光子がぶつかってくることで受ける力のこと

 そこで、理想的な軌道を外れないよう、人工衛星の多くは軌道を修正できる工夫がなされています。化学反応によってガスになる液体の推進剤を積んでいて、そのガスを噴射することで推進力を得ます。ちょうど、制汗剤などのスプレーを「プシュ」っとふかす感じです。

 補給のできない人工衛星にとって、この推進剤の尽きたときが寿命だといえます。寿命を迎えた人工衛星は、あくまでも「人間にとって害のない」ようにして捨てられますが(「デオービット」といいます)、捨て方は、家庭ゴミを捨てるときとほぼ同じ。まずは、制汗スプレーのように、残った余計な推進剤を抜き、小惑星探査機「はやぶさ」のように大気圏に突入させて燃やします。このとき地上の皆さまのご迷惑にならないよう、部品に燃え尽きやすい素材を使ったり、人の住んでいない砂漠や海洋に落ちるよう制御したりしています。または、二度と地球に戻ってこない軌道に乗せて、永久にサヨナラする場合もあります。

 長い場合で十数年活躍した人工衛星が引退するというのは、一時代が終わったようで寂しいことですが、自分の持ちうる力を出しきって、悠然と試験場から退出できたと思えば、ハッピーエンドと言えるでしょう。

バッドエンド:まさかの途中退場

ここまでは、人工衛星のミッションが無事に運んだ場合でしたが、寿命を迎える前に「デオービット」運用をする間もなく、生涯を終えることも珍しくはありません。

 突如通信不能になるケース

人工衛星が突如壊れる場合、その原因としてみなさんは何を思い浮かべますか?

一番に思いつくのは、過去の人工衛星やロケットの残骸、いわゆる「スペースデブリ」との衝突ではないでしょうか。 マンガ『プラネテス』や映画『グラビティ ゼロ』、最近では『オデッセイ』でも取り上げられたアレです。

   軌道上の人工衛星やスペースデブリの速さは毎秒7〜8㎞。これは拳銃から発射された弾丸(毎秒数百m)の軽く10倍です。ひとたび衝突すれば、その威力によって機体は派手にバラバラになり、あらゆる方向へ飛散します。他にも、大きな太陽フレアにさらされて、通信機などの電子機器が壊れることもあります。

  学力テストで例えると、近くの席の人のガリガリ書く音や、貧乏ゆすりにイライラしすぎて(デブリ等の外部からのストレス)怒りが沸点に達し、思わず「キエーー!」と奇声をあげてしまい(衛星大破)、不本意ながらも試験場から退出させられてしまった(運用終了)ようなもの。まさに「もらい事故」です。

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 制御不能になった人工衛星は「スペースデブリ」となり、デブリがデブリを増やす、そんなゾンビ映画のようなことが、実は私たちの頭の上で何十年も前から繰り広げられています。

徐々に力つきるケース

 学力テストの最中なのに、前日の一夜漬けがたたり、気がついたら15分ぐらいワープしていた、なんて経験もあるかもしれません。人工衛星も、電力系などの重要な機器が壊れた場合、最後には意識を失って(地上と通信ができなくなって)しまいます。しかし、そうなる前の少しの間は、地上と通信する余力が残されているので、この残された時間の限り、地上から様々なコマンドを送って指示を出し、回復を試みます。その結果、「はやぶさ」のように奇跡的に持ち直すこともあるのですが、問題が解消しなければ、永い眠りにつかせるしかありません。

衛星:「すみません、だいじな、ミッション、休んじゃって。」

地上:「いいんだ。今までよく頑張ったね。キミのことは忘れないよ。」(電源OFFコマンド送信) 

衛星:「ありがとう、地上のみなさん。なんだカ、トっても、眠いン、ダ。」(ガクッ)

地上:「衛星ぇーー!!」

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  なんてやり取りがあるかは知りませんが、こうして不運にもデオービットできずに運用を終えた人工衛星は、やはりスペースデブリに転身します。学力テストであれば、まだ問題を解いている途中だったのに寝落ちしてしまい、試験終了までとうとう意識が戻らなかった、という具合でしょうか。身の毛のよだつ話です。

スペースデブリのその後

  スペースデブリとなった元人工衛星は、JAXAやNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)などの機関によって監視されます。そこでは、どこを飛んでいるかを捕捉して、これからどこを飛ぶかを計算しています。監視されているデブリの数は、2014年時点で16000個以上。計算結果は、運用中の人工衛星や国際宇宙ステーションがデブリをよけるために利用されています。

 デブリは上述のジワジワ外力を受け続け、その結果、もともと国際宇宙ステーションぐらいの軌道、スタバラテの底面を地球の直径に例えるなら底面のフチから米粒ほどの距離にいたものであれば、20年ほどで大気圏に再突入します。大きなデブリは監視によって前もって落ちる確率が予測できるので、事前にニュースになることが多いです。ですからそのときはみなさん、「おかえり」とあたたかく受け止めてあげてくださいね。私はよけますけれど(笑)。

  【イラスト】山本 真衣

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☆宇宙コラム・ライター☆

清霜(きよしも)

理学修士、システムエンジニア。九州大学大学院 理学府地球惑星科学専攻 修士課程修了。在学中は太陽系の惑星大気・気候モデルを研究する。卒業後は電機メーカーにてシステムエンジニアとして働く。小学生のころ、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』(初代)と『タンタンの冒険旅行』シリーズに熱中する。宇宙科学の道に進むことを決定づけたのは、高校時代に読んだアイザック・アシモフの『天文学入門』(絶版)。

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