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理系女子だからこその ”しなやかな” キャリアプランとライフプラン

日本女子大学名誉教授 電気通信大学特任教授

小舘 香椎子(こだて かしこ)先生

日本女子大学名誉教授 電気通信大学特任教授

日本女子大学家政学部家政理学科I部(物理専攻)卒業。工学博士(東京大学)。専門は光エレクトロ ニクス。日本学術会議会員、独立行政法人 科学技術振興機構男女共同参画主監ほか、政府委員・応用物理学会副会長など多数歴任。内閣総理大臣表彰(男女共同参画社会への貢献)、文部科学大臣表彰科 学技術賞など受賞多数。

取材日:2014年6月

平成18年度文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成事業」(初年度)に採択された日本女子大学「女性研究者マルチキャリアパ ス支援モデル」プロジェクトリーダーを務め日本女子大学を退職後の現在は電気通信大学特任教授でもいらっしゃる小舘香椎子教授です。自らも三人の子供を育 て上げながら研究を続け、さらに、理工系分野を横断する学会から成る学協会連絡会を立ち上げ、男女共同参画の推進・女性研究者の活躍の場を広げる活動にも 尽力してこられた、まさに理系女子の先駆者的存在。教授としても140名を超す数多くの理系女子を世に送り出してきた小舘教授に、理系女子だからこその キャリアやライフプランをお伺いしました。

マルチキャリア

多くの学生を育ててこられた教授だからこそ、様々なロールモデルをご存知かと思います。

14062601359え え。最初に言いたいのは、理系に進んだからって研究・開発者への一本道じゃないということ。もちろんマスター、ドクターに進学する道もあって、私の研究室 からは、博士号取得者が14名、修士号取得者も34名いて、彼女たちの多くは、大学・研究所などで光関連の先端研究に携わっています。でも、企業に入るこ ともできるし、社会人ドクターとして戻ってくる道もある。それどころか研究・開発職じゃなくても、理系を学んだことをいろんな形で生かすことができるとい うことです。

理系だからこそ、マルチなキャリアを目指すことができると。

そう。継続して仕事をするということを考えると、どんなキャリアを築くにしても、専門分野があることは大きな強みになります。

例えば、博士号取得後に専門分野を活かして、国際特許事務所に就職した人もいるし、サイエンスを子供たちに分かりやすく伝える“サイエンスコミュニ ケーター”として活躍している人もいます。琉球大学の物理を専攻した人で、今は理系漫画家としてひっぱりだこになって、NASAに取材に行ったという方も いますよ。

専門を離れて、文系就職をするにしても、ですか?

IT、ICTの時代ですから。論理的思考や情報技術、それをツールとして使える強みは非常に大きいんじゃないかと。例えば、事務職でもワード・エク セルが使えないと務まらないでしょう。研究室で当たり前に使うパワーポイントのスキルが、入社後の研修中の職場で重宝がられているという人もいましたね。 物の考え方や知識、ソフト系のツールは、文系就職しても活かせるのよ。

それからね、チームで動くということに慣れていることも大きなメリットになります。会社は面で、集団で動くもの。それは研究室も同じですから。個人 で研究はするのですが、基礎技術・手法などのどこかがみんなと共有されていて、教えたり、教えあったり、グループワークは必ず必要になってくる。その過程 で学べるものは、私はすごく大きいと思いますよ。プロジェクトマネジメント力も養われますしね。

チームワークにプロジェクトマネジメント力…それは主婦になっても、活かせそうですね。

そうよ。家族の衣食住など、日々の生活、健康管理から子供の教育もそう、なんていうのかしら、家族のマネージャーとして生きていくうえでも、非常にプラスになりますよ。

なるほど!そうかもしれません。

それからね、人が生きていくうえでは、自分のコアになる、自信というか、揺らぎのない頼れるものが必要だとも思うの。息長く、継続、持続できるものは何かという視点もね。

そういう意味でいえば、サイエンスほど適したものはありません。人や世間というものは捉えどころがないところもあるけれど、自然や生物や物質は違う でしょう。サイエンスは殆どの成果の追試ができて、立証が可能なものですから、これほど確たるものはない。それに、宇宙から海底、気候変動…サイエンスの 領域はキリがないくらいに幅広く、探究したい、知りたいことはとどまることをしらない。これほど自信と継続を約束してくれる分野はないと私は思いますよ。

理工系という選択

確かに理系と一口にいっても様々な領域がありますが、医療系や化学系に比べて、理学・工学を専攻する女子生徒が少ないと言われます。それはキャリアが見えないから、という声もあるようですが…

確かに、そういう声もあるようですけど、本当にそうかしら?と思いますね。携帯電話も家電も、身の周りの生活用品は、今やエレクトロニクスと機械の 塊であり情報技術により動くのですよ。まったく遠い世界の話ではありません。今、注目を浴びている介護ロボットもそう。介護問題は避けては通れない生活問 題になってきて、ロボットの力を借りないと、自分の両親のケアもままならない世界がすぐそこにやってくるわ。キャリアも含めて、生きる、という生活者の観 点から見れば、理学・工学の魅力も違って見えてくるのではないかしら。

機械や電気電子でも、女性が活躍できる場はいくらでもあると。

ハートとモチベーションがあれば、どこでも働けるもの。マスター卒で自動車メーカーに入社して、今は工場のマネジメントをしている人もいるけど、彼 女は社長表彰を2回も受けたのよ。持ち前の明るさと気配りとが現場のコミュニケーションを円滑にして、より良い製品づくりにつながったと。そういう事例は たくさんあるわ。

自動車メーカーの工場…女性はとくに少なそうですよね。私だったら、少し躊躇をしてしまうかもしれません

日本女子大の小舘研から、男子しかいない国立大の大学院に進んだ教え子がいたのね。その学生に送別の言葉を求められたとき、私は「まず自分の居場所 をつくりなさい」と言ったんです。そうしたら、その言葉を受けて、彼女はどうしたと思う?大学院生活を始めるにあたって、コーヒーミルを買って持っていっ たらしいのよ。コーヒーの良い匂いを漂わせて、今までなかった3時のコーヒータイムをつくり、みんなにふるまうようにしたんですって。自然とメンバー同士 の会話が増えて、いつのまにか彼女の居場所もできたそう。彼女は、研究も楽しみそのままドクターにまで進みましたよ。

コーヒーミル! それは確かに女性ならではの居場所のつくり方かもしれませんね。

ここへ行けばこうなれる、と分かる道もあるけれど、新しい道をひらいていくことも、そう難しいことじゃないんです。武器はハート(心の在り方)とモ チベーション。女性採用の前例がなくても、私ならこういうことができます! と自分らしく、能動的に動けばいいだけのこと。パイオニア的精神が道をひらくのよ。

しかもね、理系女子の数がそれほど多くないということは、逆にいえば、貴重な存在ということでもある。簡単に独自性が発揮できるわけですから、その メリットを生かさない手はないですよ。だいぶ昔のことになるけれど、私自身のことを振り返ると、東大紛争の殺伐とした日々の中で、男性ばかりの工学部の助 手として、教授と大学院生たちとの気持ちの繋ぎ手を果たせたというのは、女性としての感性を生かせたからこそだと思うわ。

小舘香椎子研究室

【写真】小舘研究室の学生・助教とともに、2008年撮影。2009年SPIE(国際光工学会)の “Women in Optics” カレンダー/スケジュール帳の表紙に掲載されたもの

 ワークライフバランス

それにしても、理系女子はしなやかで強いですね。

そうね。だからかしら、うちの研究室にいた学生たちは、結婚して、出産しても、ほとんど仕事も辞めてないわね。

子供が4人いる人もいますよ。彼女は国立大のポスドクを3年やって、今は母校の高校で物理教師をしています。「生徒が好きだから、物理学を楽しく教え、後輩の育成に努めます」って。そういう人生の選択もある。

結婚・出産だけにかぎらず、私の生徒には、30代前半でマイホームを買う人も多いですよ。「家を買ったから、ローン支払いのために仕事を続けな きゃ」って笑うの。マイホームを買うことも、自分が好きな仕事を続けるための武器にしてしまうのね。ご両親や周りもうまく巻き込んで。

研究か結婚かの二者択一ではないと。

保護者世代では、学のある女性は結婚相手に困る、婚期を逃すという方もいますが、そんなことはありません。実感値としては、8割以上が結婚して、2 人以上の子供も育てていますね。ドクターまで進んだメンバーでは、奥さんの学歴のほうが上という家庭も少なくないけれど、みなとても幸せそうにやっていま すよ。学部卒の男性からすると、ドクターをとった奥さんは重いって言うかと思いきや、「彼女が好きな研究を続けるために、僕は稼ぎます」とか、「家事は分 担です」ってごく自然に言うんですから!

好きなことややりたいことに没頭している女性は魅力的に見える、ということもあるんでしょうか。

それはあるかもしれないわね。結婚もそうだけど、お母さんになってもそうじゃないかしら。お母さんが好きなことを一生懸命に続けていて、元気だったら、家族みんなが元気になれるものよ。

家庭を犠牲にするのではなくてね。とくに子育て世代はネットワークを組んで、職場復帰や保育園の情報なども交換して、前向きに頑張っているようですよ。

研究室のメンバー同士で、ですか?

小舘先生_本

そう。本当に密度の濃い時間をともに過ごした仲間ですから。そのつながりは縦にも横にもとても強い。身近なロールモデルから、上手にワークライフバ ランスをとる術を学んで。自然に結婚・出産して、「幸せです」って笑いながら仕事をして。世の中が思うほど、理系女子の世界は、がんじがらめで狭い世界で はないんですよ。

【写真】本 『光とともに歩んだ軌跡』日本女子大学理学部教授の定年退職時に、卒業生が中心となり、これまでの研究者・教育者としての指導に対する感謝の想いを表すた めに2009年3月に発行した記念冊子。小舘研究室の卒業生・留学生をはじめ、交流のあった官産学のリーダー、国内外の共同研究者、学会・人材育成などの 活動を推進してきた仲間、小中高大学などにおける友人、さらに、ご家族やアメリカからのホストサンなど250名を超す人々の寄稿文(550頁)により多次 元的に小舘香椎子像が表現され、かつ先生への心がこもる熱いメッセージ集

最後に

大学や分野によっては、身近にロールモデルがいない、という人もいそうです。

探せば、ロールモデルは世の中にたくさんあるのよ。私が監修をした冊子「理系女性のきらめく未来」(独立行政法人科学技術振興機構から発行)にも多 く紹介されているし、電通大からも「UEC WOMAN」という理工学部に在籍する女子学生を紹介するパンフレットも発行されています。

東大や東北大、東京理科大にしても、本当に今、いろいろな大学が女性を増やすための施策を行っていますから。東京大学生 産技術研究所でも、次世代育成オフィスを設置して。女性室長の大島まり教授が自ら、女性研究者とともに中高生向けのワークショップを開いたり、女子校など へ出張授業をしにいったりもしています。

ほかにも、ありますか?

最近では、内閣府が『女性の活躍「見える化」サイト』を開設しました。業種別に女性従業員比率や役員比率を公開する企業のリストを掲載しています。これを見れば、どこなら女性を積極的に受け入れているかが一目瞭然。このことで何よりもすごいと思うのは、これを内閣府が公表したということですよ。

国が動きだしたことの証でもあると。

 そうです。今は、日本の成長戦略を実現するために、国が女子の活用を後押しする時代。まさに国が、道を拓いている。この流れに乗れば、輝かしい未来が待っていると私は思うんです。

 女子が少ない、というのは、確かに今はそう。でも、門は開いているのだから、恐れることなく、前に進んで、さらにその先の道を開拓するトップリーダーを目指してほしいと思いますね。

ありがとうございました。

  • カメラマン:工藤 玲久
  • ライター:小山 由絵

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